薬物乱用した芸能人


薬物犯罪によって芸能人が逮捕される事件が後を絶ちませんが、その芸能人が著名であるほど、また犯罪と縁遠いイメージであるほど世間の注目を集めます。
しかし、逮捕後に刑事事件として起訴されても、判決が出るまでには時間が空くため、その後、裁判がどうなったかという情報は意外とスルーしてしまうものです。
そこで、知っているようで知らない薬物犯罪の基本と芸能人の薬物事件について解説します。

1.薬物犯罪の基本を整理しよう

1-1.違法な薬物とこれを取り締まる法律

日本では、以下のような法律によって、特定の薬物の所持や使用が禁じられています。
これらの法律に違反して、薬物を所持したり、使用したりするのは「犯罪」にあたり、法律に基づいて処罰されます。
たとえば、覚せい剤取締法は、覚せい剤の「輸入」、「輸出」、「所持」、「製造」、「譲渡」、「譲受」、「使用」を禁じていて、所持や使用については10年以下の懲役という刑罰が定められています。

法律名 取り締まり対象となる薬物 薬物の作用
あへん法 あへん 抑制作用
麻薬及び向精神薬取締法 モルヒネ、コカイン、MDMA、LSDなど 幻覚作用
大麻取締 大麻 抑制作用、幻覚作用
覚せい剤取締法 興奮作用、幻覚作用 アンフェタミン、メタンフェタミンなど 覚せい剤取締法違反

法律名 取り締まり対象となる薬物 薬物の作用

1-2.脱法ドラッグはなぜ「脱法」なのか

ニュースなどで「脱法ドラッグ」「危険ドラッグ」という言葉を聞いたことはないでしょうか。
こうしたドラッグを服用し、幻覚作用によって人を襲ったり、危険な運転をする事件も起こっていますが、そもそも、これだけ危険な薬物なのになぜ「脱法」なのでしょうか?
これは、日本の刑法が「どのような行為を犯罪とし、どのような刑罰を科すのか、あらかじめ法律に定めておかなければ処罰できない」という考え方(これを罪刑法定主義といいます)に基づいているためです。
そのため、たとえ人体に有害な影響をおよぼす薬物であっても、新種の場合には、これを処罰する法令が追い付かないため、処罰できないのです。どう考えても正当ではないが法律がないので処罰はできない、ゆえに「脱法」と呼ばれているのです。
もっとも、こうしたドラッグの所持や使用を処罰できなくても、人を襲えば「傷害罪」、危険な運転をすれば「危険運転致死傷罪」等で処罰できるので、脱法ドラッグによる犯罪が無罪放免というわけではありません。
また、危険な薬物が登場するたびに、禁止薬物に指定して規制しているので、当初は脱法であっても、順次、違法薬物として処罰できるようになっています。

2.芸能人の薬物事件

2-1.著名な事件をみてみよう

薬物に関する法制度の基本を押さえたところで、近年で、比較的大きく取り上げられた芸能人の薬物事件をみてみましょう。ざっくり「薬物がらみで逮捕された」という記憶はあるでしょうが、どのような薬物を使用し、最終的にどんな判決を受けたかという情報は記憶にないものです
ちなみに、近年はあへん法違反の件数自体が減っており、著名な芸能人だと、勝新太郎が1978年にあへん法違反で書類送検されたケースくらいしかありません。

逮捕時期 逮捕容疑 判決等
田中聖 2017年5月 大麻取締法違反 不起訴処分
益戸育江 2016年10月 大麻取締法違反 懲役1年
清原和博 2016年2月 覚せい剤取締法違反 懲役2年6ヶ月
ASKA 2014年5月 覚せい剤取締法違反 麻薬及び向精神薬取締法違反 懲役3年
(執行猶予4年)
押尾学 2009年8月 麻薬及び向精神薬取締法違反 懲役1年6か月
(執行猶予5年)
酒井法子 2009年8月 覚せい剤取締法違反 懲役1年6ヶ月
(執行猶予3年)

2-2.有罪でも刑務所に入るとは限らない

こうして見てみると、不起訴になった元KAT-TUNの田中聖を除き、全員が懲役1~3年の有罪判決ですが、いずれも執行猶予がついています。
執行猶予というのは、文字どおり、一定期間だけ刑の執行を猶予するということです。そして、なにごともなく猶予期間が経過した場合には刑罰が消滅します
たとえば、清原和博氏は懲役2年6ヶ月ですが、判決から4年間、罪を犯すことなく過ごした場合には、刑務所で服役する必要がなくなるのです。
これに対して、執行猶予がつかない場合を「実刑判決」といい、判決が確定すると刑務所で服役することになります。
なお、田中聖は、大麻所持の容疑で逮捕されましたが、取り調べの結果、証拠が不十分ということで「不起訴処分」で終わり、そもそも刑事裁判にもなっていません。

2-3.実刑判決を受けた芸能人はいる?

先ほどの一覧はたまたま執行猶予がつく事件ばかりでしたが、中には実刑判決を受けて、刑務所に服役した芸能人もいます。

2-3-1.清水健太郎(歌手・俳優)

1994年に逮捕され(薬物使用による逮捕はこのときが3度目)、懲役1年6か月の実刑判決を受けています。また、2004年にも覚せい剤取締法違反および向精神薬取締法違反で逮捕され、懲役2年4か月の実刑判決、さらに2010年にも覚せい剤取締法違反で逮捕され、懲役1年10か月の実刑判決を受けています。

2-3-2.赤坂晃(元光GENJI)

2007年10月に覚せい剤取締法違反で逮捕され、このときは懲役1年執行猶予3年の判決を受けましたが、執行猶予中の2009年12月に再び覚せい剤取締法違反で逮捕され、懲役1年6か月の実刑判決を受けています。
ちなみに、押尾学も懲役2年6ヶ月の実刑判決を受けて服役しましたが、これはホステスを死なせた保護責任者遺棄罪によるもので、麻薬取締法違反の事件は執行猶予判決です。

2-4.大麻の使用は処罰されない?

益戸育江(旧芸名・高樹沙耶)といえば、女優業を引退して医療用大麻の合法化に取り組み、2016年7月の参議院選挙に出馬(落選)したことでも有名でしたが、落選後の10月に大麻所持容疑で逮捕され、大麻所持罪の有罪判決を受けています。
彼女は「大麻を吸引していた」と大麻使用を認めていますが、大麻使用については処罰を受けていません。
実は、大麻取締法は大麻の「使用」を規制していないため、「大麻使用罪」という犯罪は存在しないのです。
これは、日本で古くから大麻が栽培され、茎の部分を麻縄にしたり、実の部分を七味唐辛子の原料(今でも七味唐辛子の原材料の一つとして「麻の実」が使われています)としてきたことから、大麻の使用を処罰しにくい、という事情があるためです。
もっとも、大麻の使用が処罰されないとしても、所持罪で処罰できるので、法の抜け道があるわけではありません

ただ、大麻と認識せずに所持をしていた場合、起訴されないようです。例えば車の中で見つかったとしても自分の物ではない、と否認した場合、故意、認識の有無の判断が難しくなり、客観的に所持といえるか難しいと検察官が判断して、処分保留で釈放されることがあるようです。(参考サイト:刑事事件に強い弁護士に無料相談

3.薬物犯罪の特徴

3-1.高い起訴率

検察が犯罪者を取り調べて、刑事裁判にかけることを「起訴」といいます。
国内では多数の犯罪が発生しますが、検察もすべての事件を起訴しているわけではありません。
たとえば、万引きの刑法上の正式名称は「窃盗罪」ですが、初犯であったり、被害額が少額である場合は起訴しないこともあります。平成28年版の犯罪白書によれば、窃盗罪の起訴率は42.3%です。
これに対し、薬物犯罪については、「初犯だから見逃す」という考え方で臨むと、薬物が社会に蔓延するおそれがあります。そのため、薬物犯罪の場合は、初犯であっても起訴され刑事裁判になる確率が高い、という特徴があります。
同じく平成28年版の犯罪白書によれば、覚せい剤取締法違反は81.3%と高い確率で起訴されています。

主な犯罪の起訴率(平成28年版犯罪白書

罪名 起訴率
刑法犯全体 39.1%
傷害罪 39.5%
暴行罪 30.6%
窃盗罪 42.3%
覚せい剤取締法違反 81.3%
大麻取締法違反 50.6%
麻薬及び向精神薬取締法違反 51.6%

3-2.高い再犯者率
犯罪で検挙された者のうち、再犯者の占める割合を「再犯者率」といいます。
刑法犯全体では、検挙された犯罪者のうち再犯者が占める割合は48.0%(これ自体かなり高い数値ですが)であるに対し、覚せい剤取締法違反の場合は65.8%が再犯者です。(芸能人の再犯率についてまとめた記事はこちら)。このように、一度検挙されても懲りずに、また薬物に手を染める人が多いのも薬物犯罪の特徴です。

3-3. 刑事事件に精通した弁護士に依頼する

もし、あなた自身あるいはあなたの親族が薬物犯罪を犯してしまった場合には、早期に弁護士に弁護を依頼することをお薦めします。
ただし、すべての弁護士が同じように刑事事件を取り扱い、経験を積んでいるわけではありません。運転免許があっても車をまったく運転しないペーパードライバーと同じように、弁護士であっても刑事事件はまったく引き受けていない、ということも意外と多いのです。
特に薬物犯罪の場合は、所持していること自体が犯罪であり、尿検査等で使用した事実も明らかにされるため、起訴されればほとんどの場合で有罪判決になります。
しかし、有罪は有罪でも、執行猶予がついて再起のチャンスが与えられるか、実刑判決によって刑務所で服役するかによって、その後の人生は大きく左右されます。
薬物犯罪を一つの社会問題ととらえ、薬物の怖さ、薬物犯罪の特徴などを把握し、刑事事件に真摯に取り組む弁護士に託すべきでしょう。